
マンションでステキな暮らしを楽しむ
住人十色
“ほんとうの出会い”を大切に
マンションで叶える植物とともに心満たされる暮らし
目次
庭づくりを通じて「都市と自然をつなげる」をテーマに活動するガーデンデザイナー・グリーンプランナーの森田紗都姫さん。ご自宅は都心のマンションとは思えないほど植物に彩られた癒やしの空間です。住まいの中にグリーンを取り入れる工夫や、向き合い方についてお話を伺いました。
青と緑と木のぬくもりに包まれて
心地よさを育む空間のつくり方
「家がほっとできる場所なんです」と微笑む森田さんのご自宅は、都心のマンションでありながら、大きな窓からたっぷりと光が注ぎ、グリーンに囲まれた空間には、思わず深呼吸をしたくなるような安らぎを感じます。
現在のマンションに住むきっかけは、モロッコ旅行中に訪れた「リヤド」という中庭付きの宿泊施設でした。部屋には植物がふんだんに置かれ、中庭で過ごすうちに心と体が自然とほぐれていく感覚が忘れられなかったといいます。
「信じられないかもしれませんが、以前は駅の近さを優先し、日当たりの良くない物件だったので、植物は一切置いていなかったんです。ところが旅先で暮らしの中に植物がある心地よさを知り、『庭がある生活をしたい』と、帰国後すぐに住まいを探し始めました」
その思いに導かれるように、広々としたベランダとバルコニーがある現在の住まいと出会います。森田さんが好きな色「青」をアクセントに、植物と相性が良い自然素材を取り入れたリノベーションを実施。植物とともに心豊かな日々を過ごしています。

①光の加減で雰囲気が変わるキッチンの深い青壁。吊るしたグリーンが程よく調和しリラックス空間を演出する。掃除がしやすいように床はフラットにして、必要最小限の物でスッキリとした空間を実現。
②南向きのバルコニーでは開放的な空間を楽しむための様々な工夫が。ときにはこの場所で仲間と食事を楽しむこともあるそうです。
③森田さんがリラックスタイムを過ごすコーナーソファ。スペースを圧迫しない色や質感、座り心地がお気に入り。セレクトした本が並ぶ棚の壁も青にペイント。アイスカフェラテを飲みながらの読書タイムが至福の時。
空間をテーマごとに分けて
エリアに合う植物を選ぶ
マンションで植物を取り入れたいと思っても、「どこに」「どんな植物」を置けば良いか迷う人は多いはず。そんな悩みを解決するヒントが、空間を「テーマ」で分ける森田さんの部屋づくりにあります。
「この家は、『映・陰・繋・香・食・観・世・隠』という、8つのテーマの庭から成り立っています。日当たりや間取り、動線などを総合的に考えて、テーマに合う植物を配置しているんです」
例えば、キッチンの青壁を背景にしたダイニングは、「映」を考えたエリア。どんなふうにグリーンがカメラに収まるかを意識して、色や配置、バランスを工夫しています。また「陰」のエリアはカーテンをしないので、直射日光に耐えられる植物を置いています。
「テーマを決めておくと、そこに配置する植物の目的が明確になります。どんな環境で、どう使うかを考えることで、植物の選び方や日々の管理にも意識が向き、モチベーションが上がるんです」

①キッチン横の「香」エリア。リノベーションで棚を設け、多肉植物や香り豊かなハーブ類を育てる。フレッシュハーブを手軽に使えるため、料理に添えたりハーブソルトを作ったりと、毎日の食卓で大活躍。
②「繋」エリアは、室内と室外をゆるやかに繋ぐ。土をそのまま入れた地植えの庭をつくり、ペットとして飼っていたカメレオンのルーツであるマダガスカル島原産の植物を中心に植栽。室内でも自然との連続性を感じられる。
ライフスタイルに合わせたグリーン選び
植物が枯れてしまっても苦手意識を持たないで
ガーデンデザイナー・グリーンプランナーとして、植物の性質を熟知している森田さん。そんな森田さんでも植物を枯らしてしまうことはあるそうです。
「実は、今の家でも枯れてしまった木があるんです。私もまだまだ勉強中。植物を上手く育てることができないと苦手意識を持ってしまうかもしれませんが、植物も生きものです。『枯れることもある』と受け止めれば大丈夫」
森田さんは、植物が枯れてしまった時に、「いままで癒やしてくれてありがとう」と感謝の気持ちを持つようにしています。その植物と一緒に過ごす中で心地よい時間があったなら、『失敗した』と結果だけを見ず、この経験を糧にすることで『次はもっと長く育てよう』と思うことができるからです。
グリーンライフを楽しむためには、自分のライフスタイルに合う植物がポイントです。
「直感で買った植物を上手く育てるのは難易度が高いかもしれません。出張が多くて水やりが頻繁にできない方には、乾燥に強い種類が向いていますし、病気に強い品種を選ぶと育てるハードルが下がります。インテリアとの相性も大切なポイント。ペットを飼う時と同じくらい真剣に考えると、自然と『大切に育てたい』という気持ちが生まれます」

秋からはじめる植物との暮らし
楽しみながらグリーンを取り入れる
「グリーンを暮らしに取り入れることは、心身の健康のためにも必要だと思いますが、たくさん置けばいいというわけではありません」
一般に、視界に占める緑の割合「緑視率」が15%くらいだと、ストレスが和らぎ仕事や作業がはかどる適量と言われています。
「ご自身のライフスタイルや空間の特徴にあった植物の『量』や『性質』を知ることが大切ですね。無理せず、楽しみながら取り入れてください」
一年のうちで園芸に最適な季節は春。次に適しているのが秋です。秋からグリーンライフを始めたいという人には、こんな植物がおすすめです。
「秋は葉の色が濃くて肉厚な植物が取り入れやすいです。黒ゴムの名でも知られる『フィカス・バーガンディ』は初心者でも安心。さらに、年間を通じて育てやすいサトイモ科の植物もおすすめです。ダイニングやリビングなど、長く過ごす場所に置いて、まずはグリーンの癒やし効果を感じてみてください」
本来、人も自然の中で暮らしていましたが、都市生活の中で緑と隔てられています。森田さんが実践する庭を活用して自然と行き来する新しいスタイルは、私たちの毎日に元気と潤いを与えてくれるヒントに満ちています。

コーナーに置かれた青色のプランターは、もともと黒色だったものを森田さんがペイント。テーマカラーの青色が映えるスポットに。シンボルツリーは、水やりの頻度が低く育てやすい「ユッカ・ロストラータ」。

レンガのように見えるのは、木質プラスチック製のガーデングッズ「レンブロック」。ブロックを組み合わせることで、自由にサイズを変えられる。軽量なので大規模修繕時もスムーズに対応できる優れモノ。

南向きの窓から注ぐ光に合わせ、多肉植物や木のオブジェをレイアウト。カーテンを使わずに自然光を生かして、空間全体に柔らかな陰影を演出。ユニークな形のガラス容器には、日差しに強い多肉植物を入れる。

本棚の一角に飾られていた、カメレオンとカバの愛らしい置物。まるで会話をしているかのような佇まいに、森田さんの遊び心と愛着が感じられる。幼い頃からカバが好きで、「前世はカバだったかも」と語るほど惹かれているという。

格子状のシェードを天井から吊るし、エアプランツや観葉植物をハンギング。水やりは月1〜2回でOK。床の上に植物を置かなくても視線の上部にグリーンを取り込むことで空間を有効活用。

森田さんの会社が製品開発した「wood roll cover」は、インドネシアの植物素材や端材を活用した汎用性の高いアイテム。鉢のサイズに合わせて調整することができるうえ、木製ラグとしても使うことができる。
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ガーデンデザイン事務所で数多くの庭の設計・施工に携わった後、2018年に「studio YAMAMORI」設立。その後、都市と自然をつなぐ庭づくりを実践する「YOEN」を立ち上げ、ガーデン・コンサルティング(プロデュース・デザイン・設計施工)と、サステナブル素材や手仕事にフォーカスしたプロダクトブランドの2軸で事業を展開。都市生活者が、日本のハーブの取り入れ方などを学べる体験型植物園のプロデュースも手がけている。


① インドネシアのバリにて。深い緑に囲まれて「YOEN」で園芸グッズを制作中。
② オリジナルの鉢カバーたち。ラタンやチーク、銅など天然素材を使用し、手仕事で作られている。
③ タイでのガーデンデザインの事例。日本国内だけでなくアジア各地でも庭づくり等を行う。
④ マンションの庭づくりの事例。プライベートな屋外空間が自然豊かになると、そこでの暮らしが変わる。
⑤ バリで鉢カバー生産の様子。現地の生産会社と打ち合わせを行なっている。
MANSION DATA
間取り:1LDK
専有面積:53.41㎡
築年数:28年
青い壁と緑の組み合わせが美しい森田様のご自宅。
好きなものに囲まれた空間でお気に入りのカフェラテを楽しむ。
PROFILE

株式会社維苑 代表
ガーデンデザイナー/グリーンプランナー
森田 紗都姫 (もりた さつき)
株式会社維苑 代表。室内外のガーデン・ランドスケープデザインと施工を300件以上行う。デザイン業務のほか講師、商品企画、執筆など多角的に活動し、植物と人双方にとってより良い環境づくりを目指している。