ライフスタイル特集
-ワイン- 深まる秋。家でワイン時間を楽しむ
目次
秋が深まり、ゆったりとおうちワインを楽しめる季節です。ワインは身近なお酒でありながら、産地や生産者、ぶどうの種類などが複雑で、知っているようで実は知らないことも多いお酒ではないでしょうか。今回は、ワイン専門店「THE CELLAR」を経営する「カーヴ・ド・リラックス」の統括マネージャー・人見裕介さんに、ワインの最新事情や家での楽しみ方をうかがいました。
ワインの最新事情から注目ワインまで
世界各地でワインはつくられていますが、中でもフランスのボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュは3大産地として有名です。近年はフランス以外の産地も注目されていますが、その背景には何があるのでしょうか。
■フランスワイン高騰の影響
「これまであまりワインを飲まなかった、アジア圏の富裕層などがワインを飲むようになったり、ドバイのハイクラスホテルに高級ワインが常備されるようになってきました。こうした層の人たちは、世界的なブランドとして確立されているボルドーやブルゴーニュ、シャンパーニュを好む傾向があるため、フランスワインが品薄になっています」
ぶどうを原料とするワインは農産物。地域ごとに収穫できるぶどうの量には限りがあり、生産量を急に増やすことはできないため、需要が高まると価格が高騰。さらに日本国内でみてみると、円安傾向にあることや、世界情勢の影響による輸送コストの増加などの影響もあり、フランスワインの価格はかなり上がっています。
「フランスワインに手が届きにくい状況になっている中で、美味しいワインを飲みたい方が目を向けているのが、フランス以外の産地です。少し前はアメリカや南米、オセアニアのワインが注目されていましたが、日本を含むアジアでも高品質なワインがつくられるようになり、人気が高まっています」
人見さんセレクトのフランスワイン。左から、ボルドーの「シャトー・ラグランジュ」、シャンパーニュの「アンリオ」、ブルゴーニュの「アンヌ・フランソワーズ・グロ」。
■SNSで拡散されたナチュラルワイン
産地以外のトレンドとして、ナチュラルワインの専門店やナチュラルワインを扱うレストランが増えています。ナチュラルワインとはどのようなワインなのでしょうか。
「ぶどうを病気や害虫、天候の被害からコントロールするために、農薬や殺虫剤、肥料を散布しています。ワインの歴史は古く、農薬がない時代から生産されていました。その時代に戻り、科学的なアプローチをせずにつくられたのがナチュラルワインです」
ナチュラルワインに明確な基準はありませんが、一般的には「化学肥料や農薬を使わずに、できるだけ自然な方法で栽培・醸造されたワイン」を指します。各国の団体が定めた基準をクリアすると、認定マークをつけることができます。
「フランスの伝統的な産地では、いつ・どこで・誰がつくったのかをラベルに記載します。しかし、ナチュラルワインはそうした決まりがないため、生産者の感性で自由なラベルをつくることができます」
ナチュラルワインは添加物が少なく、果実味が豊かで飲みやすいのが特徴。口あたりの良さやナチュラル志向の方に好まれていますが、それだけではなく、ラベルのデザインがSNSで拡散されやすいという理由があるのだとか。
「コロナ禍で『家飲み』が増えた時期、ナチュラルワインのアートラベルがSNSで『映え』たことで若者の間に広まりました。既存のクラシックワインに窮屈さを感じていた人が、ナチュラルワインの自由な発想に魅力を感じているのかもしれませんね」
■美味しい日本ワインが増えている
他にもワイン専門店で見かけることが多くなったのが日本ワイン。ワインのレベルが上がり、世界のコンクールで最高賞を受賞する高品質なワインがつくられるようになっています。
「1999年に当社が創業した頃、日本ワインの知名度は低く、評価も決して高くはありませんでした。ぶどうの生産に適したフランスと日本では、気候や風土が異なります。フランスのぶどうをそのまま日本で栽培しても上手くいかないことも多く、ぶどうの収穫は年に一度のため、ノウハウを蓄積するのにも時間がかかりました。ところが、ぶどう農家が代替わりし、若い世代になったことでSNSなどを通じて情報が共有され、新しい生産者によるワインづくりのレベルが急速に上がっています」
山梨県や長野県では、大学や行政がワインづくりを支援し、ワイン産地として発展。全国のワイナリーの数は約500場になり、各地で美味しいワインづくりが行われています。
① ワインとは思えないほどアーティスティックなラベル。ワイン選びに迷ったら、自分の感性に合うラベルで選ぶのもあり!
② 造り手が増え、種類が豊富になっている日本ワイン。THE CELLAR Toranomonの日本ワインコーナーには全国のワインが並ぶ。
■注目の産地や日本ワインの特徴
「カーヴ・ド・リラックス」は早くから日本ワインに注目し、生産者の想いを紹介してきました。今、注目している産地はどこでしょうか。
「当社が注目している産地の一つが北海道です。香りが高いぶどうを栽培するには寒暖差が必要ですが、北海道はその条件を満たしています。醸造家が注目し、北海道に移住する人も増えています」
例えば北海道余市町は、ワインによる地方創生を掲げ、隣町と合わせて22場のワイナリーからなる生産地に成長。世界のトップレストランにオンリスト(ワインメニューに掲載)され、入手困難といわれるドメーヌ・タカヒコの「ナナツモリ」も余市産です。
「全国各地で美味しいワインが登場しています。生産地の名前を聞くだけで土地や気候が思い浮かぶので親近感があります。興味があれば産地を訪ね、生産者と日本語で話せるのもメリットです。また今までワインは、飛行機や船で運ばれてくるものでしたが、日本ワインなら運ぶのも簡単。輸送ストレスが少ないので、美味しい状態で飲めるのも嬉しいですね」
伝統的なものから新しいスタイルのものまで、世界にはさまざまなワインがある。ヴィンテージを含めると数え切れないほどの種類が存在している。
ゆったりとおうちワインを楽しむ
家でリラックスして、自分のペースで好きなスタイルで飲むワインは格別。そんな家飲みの楽しみ方を人見さんに教えてもらいました。
■美味しいワインを飲むために知っておきたいこと
「これからの季節は、焼き鳥や鍋といった料理にもワインがよく合います。ワインだからといって洋食やチーズを用意する必要はありません。普段の食卓に飲みたいワインを取り入れてください」
「1,000円前後で美味しいデイリーワインはたくさんあります」と人見さん。ボトルを購入して飲みきれない時は、小瓶や小型のペットボトルに移して保存すればよいのだとか。「酸化による劣化を防ぐために、空気に触れないよう容器ぎりぎりまで入れて蓋をしておくと酸化しにくくなります」
-特別なワインをもらい、クリスマスやお正月まで保存したい時、ワインセラーがない場合の保存方法は?
「冷蔵庫の野菜室に寝かせてください。ワインは温度が高すぎても低すぎても劣化します。また、乾燥してコルクが縮むと酸化の原因になります。野菜室は適度な温度と湿度で、短期保存にぴったりです。ワインは振動にも弱いので、野菜室の下に寝かせて、根菜などで固定すると転がりません」
「ワインはすべて美味しいですが、劣化させないように注意してください」とアドバイス。ワインの上手な保存も、美味しく飲むための大切なポイントですね。
① 初心者におすすめグラス・リーデルの「シャンパーニュ・ワイン・グラス」は、シャンパーニュからワインまで使える万能グラス。1脚あれば人生の特別な日に長くご使用いただけます。
② 家飲みには手頃な価格のデイリーワインを選びたい。美味しさ=価格の高さというわけではなく、1,000円前後の美味しいワインもたくさんある。
■シーンに合う1本と巡り合う方法は?
最後に、美味しいと満足できるワインに出会うためのコツを教えてもらいました。
「家で1〜2人で飲むワインと、ホームパーティで7〜8人で飲むワインとでは美味しさが違うんです。みなさんは絶対的に美味しい1本があると思っているかもしれませんが、ワインの美味しさは飲む人数や料理など、飲む『シーン』によって変わります」
例えば2人で飲むなら、重めのワインは飲みきれないかもしれませんが、8人ほどならグラス1杯ずつでインパクトのあるワインとして楽しめます。シーンに合わせたワイン選びが美味しく飲むコツなのです。
「当店でも約2,500種類のワインを取り扱っています。お客さまがこの中からシーンに合う1本を見つけるのは至難の業。美味しいワインに出会うには、ショップのスタッフに聞くのが近道です」
「安いワインしか買わない」「餃子に合うワインを探している」など、相談をためらってしまうこともありそうですが…
「私たちは、美味しくワインを飲んでいただきたいと思っています。遠慮せず気軽に聞いてください」と人見さん。これからは迷わずスタッフに相談してみましょう。
「THE CELLAR Toranomon」テイスティングルーム。造り手のストーリーを伝えるセミナーや試飲会など体験イベントを実施
毎年解禁される「ボジョレー」は年明けに飲むのもアリ
ワインの味は収穫年のぶどうの出来栄えに左右されます。「今年の〜」で語られるのが、11月第3木曜日に解禁されるボジョレー・ヌーボー。フランス・ブルゴーニュ地方のボジョレー地区で、ガメイ種というぶどうからつくられる新酒ワインです。
「解禁日にいち早く飲みたい気持ちもわかりますが、日本まで新酒を空輸すると、早く飲める分、輸送ストレスも多くなります。その年の個性をより深く味わいたい方は、船便で届くボジョレーを年明けに飲むのもおすすめです」
船便は価格が抑えられるメリットもあります。ワインにまつわる話はいろいろありそうです。お気に入りのワインショップやスタッフを見つけて、美味しいワインのある暮らしを楽しみましょう!
① 知れば知るほど奥深いワインの世界。迷ったり、わからないことがあった時はショップスタッフに尋ねるのも上手なワイン選びのポイント。
② ワインを購入するだけでなく、テイスティングサービスのあるショップも。思いがけず好みの1本に出会えることも。
手頃な価格のデイリーワインが充実。産地や品種も豊富で見ているだけでワクワク。選ぶ時間が楽しい。
THE CELLAR Toranomonは早い時期から日本ワインを扱ってきた。出身地やゆかりの地域のワインを探してみよう。
ワインを知るほどグラス選びの大切さに気づく。口あたりがよい薄手のグラスがおすすめ。
「カーヴ・ド・リラックス」のCSR活動としてワイナリーと協力し売り上げの一部をがん治療研究に寄付している。
ワインラベルにはトリビアが隠されている。畑によってラベルに描かれる女性の絵が異なる。
ショップにおすすめのワインが並ぶことも。スタッフに相談してシーンに合うワインならお得に購入できるチャンス。
株式会社カーヴ・ド・リラックス
ワインの小売販売店。1999年に虎ノ門に創業し、現在は都内に5店舗を展開。「ワインのある楽しい生活」を提案するため、各店舗のスタッフが顧客のニーズに合わせてワインを厳選してくれる。CSR活動にも積極的に取り組み、店舗のある地域や日本ワインの産地に対し、子どもの教育支援を目的とした寄付を続けている。各店舗で試飲会やペアリング体験などのイベントも開催中。
① 静かな灯りに誘われて。扉の向こうに広がるのは、ワインとともにある豊かな時間。
② グラスを傾けながら語らう人々。そのひとときに宿るのは、上質な空間と心地よい時間の共有。
③ 手に取る一本が、日々を少しだけ特別にする。洗練された選択が、暮らしに深みを添えていく。
④ 一人ひとりの好みに寄り添う、丁寧な時間。豊かな暮らしは、そんな対話からはじまる。
⑤ 整然と並ぶボトルに、心が整う。上質な空間が、人の感性をやわらかく刺激してくれる。
⑥ 日常の延長にある贅沢を、ここから。THE CELLAR Toranomon──ワインを通して、豊かな暮らしを紡ぐ。
PROFILE
株式会社カーヴ・ド・リラックス
世界約30カ国および日本国産のワインの販売、ワインイベント、セミナーなどを行うワイン専門店。