ライフスタイル特集
-北欧刺繍- 草花や伝統柄のやさしいステッチ ぬくもりが広がる北欧刺繍の魅力
目次
家で過ごす時間が長くなるこの季節に、ゆったりと針と糸を動かす手仕事を楽しんでみませんか。今回ご紹介するのは、自然をモチーフにした優しいデザインや色合い、ウール糸の柔らかい温もりにほっこりする「北欧刺繍」です。東京・代官山にある「北欧てしごと教室」を主宰する大野真理さんに、北欧刺繍の魅力や暮らしへの取り入れ方をうかがいました。
北欧の風土が生んだ、甘すぎない「大人かわいい」世界
冬が長く日照時間が短い北欧では、家の中で過ごす時間を大切にする文化が根づき、インテリアや手仕事へのこだわりが深まりました。フランスやイタリアの刺繍テクニックが北欧に伝わり、暮らしの中で独自の発展を遂げたのが北欧刺繍です。
例えば、デンマークには「ヘデボ(HEDEBO)」と呼ばれる白糸一色の伝統刺繍があります。また、通常の刺繍糸(25番糸など)に加えて、寒い地域らしく「ウール(羊毛)糸」を使用するのが北欧刺繍の特徴。ふっくらとした立体感となんともいえない温かみのある質感は、手に取るだけで心を癒やしてくれます。
北欧刺繍の魅力は独特な色彩にあります。手芸店で見かける原色に近い糸とは異なり、北欧の生活空間に馴染むような繊細な中間色(グレイッシュカラー)が多く使われます。そのため、仕上がりは甘すぎず暮らしにすんなり溶け込むアイテムとして使い続けることができます。
デザイン面では、豊かな自然に恵まれた北欧らしく、森や花、動物といった身近なものをモチーフにしたり、シンプルな幾何学模様が多いです。これらは、基本ステッチで表現しやすいため、初心者でも手軽に始めることができます。
シンプルで洗練された雰囲気でありながら温かみがある教室は北欧にいるよう
北欧刺繍にチャレンジ、必要な道具は?
基本の道具を揃えれば、色やデザインをアレンジするだけで様々なバリエーションを楽しむことができます。すでに刺繍道具をお持ちの方はそちらを使うことができます。
<必要な道具>
・刺繍針:フランス刺繍針を使用。糸に合わせて針を選ぶ
・刺繍糸:色が豊富なフランスのDMC社の糸や、ふっくらした風合いのウール糸を用意
・布:針通りがよく、ナチュラルな風合いのリネン(麻)がおすすめ
・刺繍枠:布をピンと張るために使用。10.5cmほどの小ぶりなサイズが初心者に扱いやすい
・刺繍トレーサー:図案を布に写すために使う
・糸切りバサミ:コウノトリをデザインしたDMC社製のはさみは、刃先が細く糸を切りやすい
道具は手芸店やインターネットで購入できますが、どれがいいか迷う時は図案が生地に印刷されて使用する糸もセットになった「スタートキット」を使ってみることもできます。また、材料や道具を揃えなくても手ぶらで参加できる「体験レッスン」もあるので、とりあえず雰囲気を味わいたい方にはおすすめです。
図案が印刷された生地と刺繍糸のセット。ペーパーフレーム付きなので完成品を飾ることができる
基本ステッチをマスターすると小物が作れるように
刺繍の工程は、大きく分けて「図案を布に写す」「針で刺す」「仕立てる(形にする)」の3ステップで進みます。慣れないうちは図案を布に写す作業に力が入ってしまいますが、自分のペースで楽しむ気持ちが大切です。
教室では「北欧刺繍入門」レッスンで、「バックステッチ」「チェーンステッチ」「サテンステッチ」など、6種類の基本ステッチを学びます。これらをマスターすれば、アルファベットや草花のワンポイントを描けるようになります。色の組み合わせでバリエーションを広げると、ピンクッション(針山)やニードルブック(針入れ)のような小物を仕上げることができます。
大野さんのアドバイスは「正解を求めすぎないこと」。少し線が曲がっても、それは世界に一つだけの「手仕事の味」になります。完璧を目指すのではなく、自分が好きなものを作るプロセスそのものを楽しむのが北欧スタイルです。
① ラップランド地方に伝わる木製の「ククサカップ」をピンクッションの土台にした北欧らしいアイテム
② デンマークから届いたウール糸が並ぶ。どれを使うか選ぶのにワクワク
さらなる技法を学び奥深い刺繍の世界を知る
基本ステッチの他にも、「ホールステッチ」「ペキニーズステッチ」といった応用技法を習得することで、刺繍のバリエーションが広がります。ブローチなどのアクセサリーから、ポーチやティッシュケース、ブックカバー、トートバッグなど日常で使える様々なアイテムに応用することができます。子どもの持ち物にワンポイントの刺繍をしたり、お友だちにプレゼントを贈るのも素敵ですね。
上級者になると、布をカットして模様を作る「カットワーク」や、立体感をもたせる「スタンプワーク」といった技法にも挑戦できます。これらを取り入れることで、表現の幅がぐっと広がり、奥深い刺繍の世界を知ることができます。
自分で刺繍ができるようになると、お気に入りの服に穴が空いたりほつれたりしても、刺繍を施して「修繕」できるようになります。長く大切にものを使う、北欧のサステナブルな精神にも通じます。
① ギザギザがでにくいように考慮した教室のオリジナル図案。楽しみながら達成感を感じられる
② ポケットティッシュケースやポーチ、トートバッグ、ファブリックパネルなど、応用できるアイテムは無限に広がる
リズミカルに手を動かし無心になる時間を大切に
北欧刺繍の魅力は、寒さが厳しい地域で、人々が家族や友人と語らいながら手を動かす、「ゆったりと流れる時間」を味わえること。刺繍はリズミカルに針を動かすので、作業に没頭しやすいです。時間に追われる生活から一歩離れ、無心に手仕事をする時間を持つことで気持ちを整えることができそうです。
ステッチの技法を習得するだけではなく、自分好みの糸や布を選んだり、何を作ろうかとあれこれ考えたり工夫をする「ワクワク感」も大切です。言われたことに従うだけではなく、自分が作りたいものを自由に表現することで、気持ちが活性化するのではないでしょうか。
北欧には「クリエイティブに自分らしく生きる」ことを大切にする文化や暮らしがあります。北欧刺繍を通じて、「自分らしく」生きる北欧の価値観に触れることも大きな魅力です。
上級者になると、ウール糸でリスのしっぽをふわふわにしたり、きのこを立体的にして質感をだすことができる
編み物やモビールなど生活の中に手仕事がある暮らし
冬が長い北欧では編み物もとても盛んです。北欧の電車に乗ると、車内で編み物をしている人をよく見かけます。北欧の編み物は、伝統的なミトンや靴下など、特有の幾何学模様(ノルディック柄など)が特徴です。寒さが厳しい北欧の毛糸は保温性に優れ、冬の暮らしに欠かせない温もりを届けてくれます。
また、フィンランド発祥の麦わらと糸で作るモビール「ヒンメリ(Himmeli)」も有名です。北欧らしい幾何学的な多面体がつながり、ゆったりと動く様子に癒やされます。ヒンメリは光のモビールと呼ばれ、冬が長い暮らしの中で光を待ちわびる人々の思いが込められています。
麦わらは北欧の装飾によく使われます。ドイツで生まれたストロースターもクリスマスシーズンを彩る装飾として人々に親しまれてきました。麦わらの並べ方次第で、様々な表情のストロースターを作ることが可能。素朴な材料で、無限にアレンジできるのも魅力です。
① 北欧の毛糸を使った編み物なども学ぶことができる。全24パターンの模様を編みながら、編み込み模様の編み方とコツを覚える
② 麦わらと糸でつくる「ストロースター」は、自然を身近に感じさせる温かみのあるオーナメント
刺繍が初めてという人を対象にした体験レッスンでは、くるみの殻を使った可愛らしいピンクッションを作りながら基本を学ぶ
ボタニカルなモチーフが多い。布目が細かく初心者でも刺しやすいベルギーリネンを使用
同じ青色でも何種類もある。微妙な色合いの違いで仕上がりの表情が変わってくる
「カットワーク」の技法を取り入れたソーイングケースとファブリックパネル
複数の基本ステッチを組み合わせて多様なデザインが表現できる楽しみがある
教室のドアを開けると北欧のゆったりした世界観が広がる
刺繍を通じて北欧の暮らしを体験
北欧には、コーヒーとお菓子を楽しみながら団らんする「フィーカ(Fika)」という習慣があります。教室でも刺繍や編み物のレッスンの中で、作業の手をとめて、参加者たちとおしゃべりをしながらお茶を楽しむ時間をもうけています。
教室では手ぶらで参加できる体験レッスンから、入門編、さらに学びを深める応用編まで多数開催。マイペースに学びたい方のために、動画によるオンライン講座もあり、教材が自宅に郵送され、スマホやPCで好きなタイミングで受講できます。わからないところは写真やメールで質問することができるので安心です。
寒い季節は、家で手仕事をスタートするのにピッタリです。北欧のゆったりとした空気感を針先にのせてみませんか。
① マンションの一角に位置する教室。温かみのあるウッド調のドアが目印
② 教室のエントランスには、教室で作られた成果物や材料などが並び、手芸の楽しさやワクワク感を感じさせてくれる
③ 美しい色の刺繍糸が数多く取り揃えられている。色とりどりの糸を使って、布の上に草花や動物の刺繍が生み出されていく
PROFILE
教室を主宰する大野さんは、弁護士として活動していましたが、「クリエイティブに自分らしく生きる」という北欧の精神に魅せられデンマークに留学。帰国後、正解を追うのではなく、自分が作りたいものを自由に作るプロセスや、無心で手を動かす楽しさを体験できる場を作るために教室を開校。初級者から上級者まで楽しめるレッスンや、オンライン講座、キット販売を展開しています。