東急コミュニティー

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マンションでステキな暮らしを楽しむ

住人十色

“もの”のあり方や重ねた時間を愛する暮らし方

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目次

器や衣服などこだわりの品々が並ぶ雑貨店「塔屋 TOYA」。オーナーの和田基樹さんは、緑豊かな高台に建つ築60年超のヴィンテージマンションで、奥様と二人で暮らしています。卓越したセンスで国内外の優れものをセレクトする和田さんのご自宅は、“好き”が溢れています。肩肘をはらず、住むほどに心地よさが増していくような住空間のつくり方を伺いました。

生活の大半の時間を過ごす場所だからこそ
「気持ちがゆるむ感覚」を大切に

オーナーを務める雑貨店「塔屋」に歩いて通える距離に、和田さんの住まいはあります。文豪も暮らしたという由緒あるヴィンテージマンションの存在は以前から知っていましたが、人気物件ゆえになかなか空きが出ず、入居できたのは「偶然が重なった結果」と言います。

 

「2019年の秋、店の物件を探していた時期にたまたまこの部屋が空いたんです。夫婦二人で住むにはちょうどよい広さ。竣工当時の趣をそのまま残した佇まいも気に入りましたが、都心にありながら窓の外に緑が広がり、自然を身近に感じられる景色が決め手になりました」

 

生活を彩る器や衣服を扱う仕事柄もあり、住空間へのこだわりがあります。

 

「一日のほとんどの時間を店と家で過ごします。その場所の心地よさにこだわらない生き方はしたくないなと…。ここは賃貸なのでリフォームはしていませんが、初期オーナーのセンスが随所に際立っています。私は広い空間を自由にしていいと言われると戸惑いますが、制約がある空間をいかに使いこなすかを考えるのが好きなんです。ライフスタイルショップ「CLASKA Gallery & Shop ”DO” 」に勤務していた頃から店舗のコーディネートを担当していたこともあり、自分なりに空間をアレンジしています」

 

備え付けの重厚な収納棚やクローゼットに、手持ちの北欧ヴィンテージのキャビネットやテーブルが自然に調和し、温もりを感じるやわらかな空間が形づくられています。

①都心でありながら、窓の外にゆったりとした緑が広がる。周囲の住宅と適度に離れているため、レースのカーテンだけで過ごせるとのこと

②壁一面にクローゼット、反対側には棚が備え付けられた機能的な寝室。時を重ね備え付け家具も味わい深い色合いに

③キッチンのタイルがクラシカルな雰囲気を醸し出す。キッチンとリビングを分けるR型の仕切りが直線的な空間に柔らかな表情を与える

店や住空間に共通するテーマ
コンパクトな空間をいかに「いかす」か

和田さんが“もの”に興味を持つようになったのは、大学生の頃でした。当時は世の中で「心の充実」や「個人の価値観」が重視され始め、こだわりの家具や雑貨を扱うインテリアショップが登場し、雑誌でもライフスタイルの特集が盛んに組まれていました。

 

「今では感謝していますが(笑)、父親がしつけに厳しい人でした。『大学生になったら好きにしていい』と言われていたので、反動もあってかバイト代を貯めては好きなものを買うようになりました。原宿の裏通りから生まれた『裏原ブーム』の全盛期。学生ながら、デザインが気にいった5,000円ほどのTシャツを買い、大切に着ていました」

 

住空間へ本格的に目が向いたのは、大学卒業後に予備校職員となり、自分の住まいを購入した頃のことです。給料が入るたびに、一生ものとなるような食器や家具を少しずつ買い揃えていきました。転機となったのは2011年の東日本大震災。「いつ何か起きるかわからない。経験はないけれど自分が好きなことをやろう」と、以前から興味があった雑貨業界へ転職しました。

 

現在の部屋づくりについて「気にいったものを感覚的に置いているだけ」とさらりと語りますが、色や素材を統一するだけではなく、あえて「チグバグな感じ」を組み合わせるコーディネートにプロの感性が光ります。

 

さらに空間をスッキリ見せる工夫として「箱の活用」が参考になります。

 

「CLASKA時代からお付き合いがある、美術家・澄敬一さんが手がけたアルミボックスや木の箱の風合いが好きで愛用しています。書類やテイッシュ、携帯のコード類といった生活感の出やすい細々としたものをすべてここに入れてしまうんです。中身が多少乱れていても、容れ物が美しいので、部屋の調和が保たれます」

①R型の仕切りはマンション内でこの部屋のみ。50年代のアルヴァ・アアルトのテーブルにボーエ・モーエンセン、アーコールの椅子を合わせる

 

②雑貨店のようなディスプレイ。色や形に魅せられて購入したものがセンスよく配置されている。実は可愛いらしいものも好き

ものえらびのコツは「正直になること」
常にアップデートされる自分らしい空間

和田さんの話に耳を傾けていると、単に好きなものを増やすだけではなく、今の気持ちに合わないと感じた家具は潔く手放し、空間を常に循環させていることがわかります。

 

「店の開業記念に、デザインが気に入ったピエール・ジャンヌレの椅子を購入したんです。名作として名高い椅子ですが、自分の住空間にはどうしても馴染まないと感じ、思い切って手放してしまいました。人気や骨董的価値があるから収集するのではなく、あくまで『今の自分』の身の丈に合っているか、心地よいと思えるかどうかが大切なんです」

 

もの選びの基準は、直感的に「色やデザイン」に惹かれるかどうか。誰かの評価やSNSのトレンドではなく、「これはいい」という感覚に素直に従います。部屋にある品々は、独立前から大切に使ってきたものがほとんどですが、そこに店を通じて知り合った現代作家の作品が少しずつ加わります。

 

「いわゆる物欲はない方」と語る和田さんが、最近購入したのがバティア・スーターのアーティストブック。「鮮やかなグリーンの装丁が美しく、内容はもちろん『もの』としての佇まいも好みです。決して安くはありませんが、このグリーンが目に入るたびに心が満たされる。自分にとって良い買い物をしたと満足しています」

お気に入りの器でコーヒーブレイク
その時間が日々の生活を豊かにする

雑貨業界に身を置いて感じているのは、「飲食や趣味にこだわる人は多くても、住空間にまでこだわる人は意外と少ない」ということ。心地よい空間にするための第一歩を尋ねると、「まずはマグカップ一つからでもいいので、自分の好きなものを使ってみてください」とアドバイス。

 

「いきなり全てを揃える必要はありません。日常生活で使う食器を一つ取り入れると、暮らしの心地よさは格段に変わります。私も好きな作家さんの食器を揃えることからはじめました」

 

和田さんが、大きな家具として最初に買ったのはヴィンテージの椅子でした。

 

「よく言われることですが、自分だけの特別な椅子があると、家での過ごし方が変わります。ボーエ・モーエンセンの椅子は10年以上使っていますが、その後に追加した色違いの椅子は、色味が美しく今一番のお気にいりです」

 

本当に好きなものだからこそ、大切に長く使い続けることができるーー。

 

ものが溢れ、どんなものでも手軽に手に入る時代だからこそ、自分の「好き」という感覚に軸足を置いたもの選びや、ものと共に時間を重ねる過ごし方を大切にしたいものです。好きなものがふと目に入り、手に触れる瞬間の満足感や安らぎが、日々の暮らしに静かな幸せをもたらしてくれます。

リビングの備え付けの木製棚には、作家の食器がセンスよく収納。どんな料理にも合う白と黒、グレーが中心

朝ごはんはバナナ。「視覚的にもスイッチが入る」とヴィンテージのアラビアのお皿に盛る。グラスはピーターアイビー

甘い物に目がない和田さん。エスプレッソマシンを加工した澄敬一の作品にお菓子を常備。お気に入りのマグカップは吉田直嗣の作品

お気に入りの品々。アルミボックスには雑誌や書類など「とりあえず」の物を入れる。グリーンの本がアクセントに

「本や雑誌を置くだけの棚にはしたくない」と、それぞれのスペースにおいて単調にならないようにディスプレイを楽しむ

手持ちのカイ・クリスチャンセンのキャビネットが誂えたかのように収まる。ルース・ファン・ビークのポスターが空間を彩る

zoom-up

無から何かを創り出す作家という存在に最大の敬意を払い、作品に対して自分の意見は押し付けず、作家それぞれの体験や、イメージなどが反映された作品のストーリーを大切にしています。「塔屋」をオープンして5年が経ち、今後は店舗運営の枠を超え、外部との企画展や空間ディスプレイのディレクションなどにも積極的にチャレンジしていきたいと意欲をのぞかせます。

① 店の外観。2020年3月にオープンしたが、2日目にCOVID-19のパンデミック宣言が出され、大変なスタートとなった。もうすぐ6年を迎える。

② 2023年からフィンランドで古道具などの買い付けをスタート。

③ フィンランドで買い付けをする一方、日本の現代作家の企画展もジャンルを問わず、精力的に開催している。

④ 地方の作家のアトリエや自宅へ赴き、自らインスタグラム用の撮影をすることも多い。

⑤ 昨年末に出版した写真カード集。最近はTOKYO ART BOOK FAIRなどへの出展も。媒体を問わず、自ら発信する機会は増やしていきたい。

⑥ 東京、フィンランドも好きだが、京都はまた特別な存在。毎年、足を運ぶようにしている。

MANSION DATA

間取り:2LDK

専有面積:49㎡

築年数:築64年

コメント:江戸時代の面影を残しながらも、現代的な建築物と緑豊かな自然が融合し、地形的にも恵まれた、都心の中でも稀有なエリア。リビングやベランダでくつろぎながらお酒を飲むことが日々の楽しみ。

PROFILE

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雑貨店「塔屋 TOYA」オーナー

和田 基樹 (わだ もとき)

文京区目白台の雑貨店「塔屋 TOYA」オーナー。予備校職員、CLASKA Gallery & Shop “Do”での勤務を経て、2020年に自身がセレクトした器、衣服などを扱う「塔屋」をオープン。ヴィンテージマンションで妻と二人暮らし。